迷子侍

2/6
前へ
/11ページ
次へ
「よそ見してんじゃねぇ!!クソ女がぁ!!」 鼻先を刃が掠める。 無意識下で空を仰ぐようにして頭を引いていなければ、死ねただろうに。 そんなつまらないことを考えていた。 「すまない、少し寝ていた」 昔の夢から覚めると、目の前には盗賊風の大柄な男。 その手には長刀。 盗賊が持つには中々に豪奢な作りの長刀に見える。柄と鍔の装飾からしても明らかに高価なことに違いない。 大方盗んだのであろう。見てくれが豪華な代物を盗むのが盗賊の特徴だしな。 それに頭が弱いことも盗賊共の特徴だ。 あれは明らかに武器には不向きだ。 振る度に金と鎖の飾りが手に当たるし、その分無駄に重くなる。それに何より、装飾同士がかち合って耳障りだ。 しかし、これが現代の真っ当な刀の姿なのだから、誰も気に留めない。 今回はたまたま私が帯刀していたから気になるだけだ。 「ふざけたことを抜かしやがって……!」 別にそんなつもりはなかった。 しかし私の発言は彼の機嫌をすこぶる損ねたようで、刀を上段に構えて襲いかかってきた。 意外と構えはしっかりとしていて、剣士そのものに見えた。 成る程。 こいつも私と同じか。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加