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「知ってる?壱花。体育の小沢はゲイって噂」
それを聞かされたのは今から丁度一週間前の事だった。
着替え終わった壱花は鞄をロッカーから取り出し、怪訝な顔で振り向いた。
片付けの当番を終えてからの着替えだったため、2人の他に女子更衣室には誰もいない。
「またそんな……。一恵、根も葉もない噂を広めたりしたら駄目だよ。言われた本人は傷つくし、広まってからじゃ遅いんだから」
「ぶー、今度のは違うもん、ちゃんと根拠あるもん!」
「じゃ、その根拠とやらを言ってみてよ」
腕を組み一応は聞いてやるかと話を促す壱花。
「友達の友達の友達から聞いた話、とかだったら単なる似非話と見なすわよ」
「……ふっふー残念でしたあ。なんと私のお兄ちゃんの目撃談で~す」
「ああ、そう……。とりあえず続けて」
「あのね、この前の体育の時、お兄ちゃん、友達と片付けで最後まで居残ってたんだけど、最後のマット片付ける時になって、先生が『あとは俺とこいつで片付けるからお前は帰っていいぞ』って言ったんだって、お兄ちゃんに。で、お兄ちゃんは待ってるって言ったんだけど、いいからって言われて教室に戻ったの。掃除が終わったあと、一緒に帰ろうと思ったのになかなか友達が帰って来なかったから、体育館まで見に行ったんだって。そしたら……」
そこで一恵は勿体ぶって一息置いた。
「友達が泣きながら倉庫から出てきて、『ごめん』とか『怖かった』とか繰り返すんだって。何があったか聞いても、大丈夫だから、誰にもいうなの一点張りで……先生はなんかそわそわしながら帰っていったらしいよ……。しかも今の話だけじゃなくて、他の人も同じようなことあったらしいって噂だよ。ここまで聞いてどう思う?壱花」
「う~~ん、正直……それは怪しい、かも」
とりあえず男子じゃなくて良かったと不謹慎な事を思う壱花だった。
その後で、友人は壱花にとって最も衝撃的な事を言ったのだ。
「ところで、うちのクラスにもターゲットと思しき人物がいるらしくて……」
「えっ、それ本当!?」
「うん、それが――あの、晴山君なんだって」
思わず壱花は噴き出した。
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