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「女将はん」
遊女は店の奥の部屋の前で立ち止まると、静かに声をかけた。
「誰や?」
障子の向こうからは静かだが厳しそうな声が帰ってきた。
「鈴蘭どす。店の前に別嬪はんが居はったんで連れてきました」
「入りぃ」
「あい、失礼しますぅ」
鈴蘭というらしい遊女は蒼妃を引っ張り、部屋に入った。
部屋の中は朱色で統一されていて、蒼妃は気付かれないように顔をしかめた。
悪趣味な部屋。
心の中だけで呟き、表情は笑顔のまま。
「あんた、名は?」
昔はたいそう美しかったであろう女将は今も美しさを残した顔をしていた。
容姿に似合わぬ鋭い視線が蒼妃を射抜く。
「山梨 小梅 と申します」
仕事で来ているため、素性がバレないように偽名を使う。
ふと、土方の詠んだ句を思い出し、小梅と名乗った。
「小梅……うちの店に何の用や?」
「女将はん、うちはこれで失礼しますえ?
お客はんがお待ちなんよ」
「あぁ、しっかり働きな。鈴蘭」
「あい。ほな小梅、またね? 」
鈴蘭は蒼妃に手を振ってから退室した。
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