考察: 高梨蒼妃と彼女について

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     京 伏見にある新撰組屯所では―――― 「アイツ……ッまた俺の部屋に入ったなぁぁぁぁぁぁ!」 新撰組副隊長 土方歳三の叫びが今日も屯所内に響き渡る。 彼は巷で鬼だの阿修羅だのと噂される、新撰組きっての冷徹な男だ。 そしてその美貌から、町を歩けば袂が恋文でいっぱいになる京の町きっての美丈夫でもある。 「…………呼びました? 副長」 しばらくすると、彼の言葉に反応して襖の向こうから顔を覗かせたのは高梨 蒼妃 (たかなし そうひ)。 彼女は十八才。普段は女中として働いているが真の姿は闇夜に暗躍する忍。 「“呼びましたか”……じゃねぇ!! テメェ、あれほど部屋には入るなとしつこくしつこく言ったのにまた俺の部屋に入っただろう!!」 額に青筋を立てて怒鳴る鬼の副長にも怯まず彼女は平然と言ってのけた。 「……あぁ、入りました」 「………………」 側で様子を見守っていた隊士達は怒りの余り震えだした土方を見て、焦ってジリジリと後ずさってゆく。 まるで火山が噴火する時のごとく、彼の怒りはいつも無関係な周囲すら巻き込んでくれるから。 「……入りました、じゃねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」 はたして怒りを爆発させた副長に、蒼妃は一言。 「あははッ、副長が怒ったー」 全然怖いともなんとも思っていない口調である。 彼女はさっきまでのキョトンとした表情から一転、子供のように無邪気に笑った。 そんな彼女の態度に隊士達の顔色は青くなっていく。 ちなみに彼女の趣味は天才剣士と謳われる某青年と同じく悪戯である。    
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