20人が本棚に入れています
本棚に追加
彼は床に散らばっているネジを一つずつ拾い上げ、さっきまでネジが入っていた空箱に戻し始めた。
「なんで、今、ばらまいたばかりのネジを、また元に戻しているんですか?」
と僕は尋ねた。
すると、彼は渋みのある声で答えた。
「これが今日の仕事さ。おい、臼井。お前は今日、俺と一日かけて、この仕事をやるんだよ。俺は毎日、同じことをやってるんだからな」
分類されていたネジをわざわざ撒き散らしておいて、再び集めていくのが仕事だって??
僕は当惑したが、ふと思った。
「これは根気を試されているに違いない!!」
この会社では、一見、無意味に思える仕事でも、それをしっかりとやれる人材が必要とされている。そして、荒川さんは、きっとその調査員なんだ。
そう勝手に前向きな解釈をした僕は彼と一緒にネジを拾い始めた。
手が鉄臭くなり腰が痛くなったが、これがお金を稼ぐということなんだと思い、黙々と作業を続けた。
といっても、作業は30分程で終わり、荒川さんは人の良い農夫のような笑顔を向け、
「今日はやけに早く終わったなぁ。いつもは昼過ぎまでかかるのに、まだ10時じゃねぇか」
と言った。
最初のコメントを投稿しよう!