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青年は苛立ちを隠せずに居た。
無言の怒り。が、しかし顔に出てしまっている怒りとでも言おうか。
この日、彼は家でのんびり過ごそうかと考えて居たが案の定母親に喚き立てられた。
彼は部屋から携帯電話、財布をわざと荒っぽく取って部屋を出た。今思えば自分でも稚拙な感情表現だった。
ふと母親に謝ろうとも思ったが、それはすぐに撤回された。
「誰が謝るか。」
青年は持っていた缶を握り潰し、歩き始めた。
「どこへ行こう・・・」
そんな事を思いながら歩みを進めた先には蝉が一匹・・・
アブラゼミだった。
よろよろと覚束ない足取でどこかへ歩いて行く。今にも死にそうだ。
「俺と同じか・・・」
と独り言を呟き、また歩みを進める。
確かに社会とかそういうような大きな物の目からそうかもしれない。
どこへ行こうなどとは思っていない。
「さっきの蝉・・・もう死んでしまうのか・・・」
「死んでしまう。」そんな思いだけが彼をなぜだか、熱く寒く淋しくさせた。
そのせいだろうか、彼は蝉が居た場所から遠くへ遠くへと歩いて行った。
まるで死を遠ざけるかのように、そして死から逃れようと蝉のようによろよろとゆっくり。
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