きっとそれは運命だったのかも

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びちゃんとスニーカーに蹴られた泥が跳ねあがるつい先日には雨が降っていたのだろうか、そう地面に問いただしたくなるぐらい森の土はぬかるんでいた。 「ッッは……」 口から吐息が漏れる。今は止まっている暇などなく、深呼吸している暇もない。 口から洩れる息が悩ましいが、そんなことを思うぐらいなら脚を動かさなくてはならない。 ガサガサと真後ろの草木が揺れて音をたてる。 「……っは!」 奴らはこんなことをしている間にも脚を動かし、獲物である彼を追っていると言うのに。 脚を動かす。溜まった疲労で震えた脚に鞭をうつようにして動かし、彼は永遠と呼べるような森のなかを走った。 ‐‐‐‐‐ (もう疲れた……限界だ。頑張ったじゃないか?ゴールしてもいいんじゃないか?) そもそも一般人とでも呼べる彼がなぜこんな森の中にいるのか不思議だった。 半袖の白いワイシャツに胸ポケットには紅く何かの文字が刺繍されており、木の枝や草に引っかけたのだろう黒のズボン共々所々穴が空いてる。 (……そういえばなんで森の中とか走ってるんだっけな?) 森の獣道を外れ、彼は地面に生えた草を踏み荒らしながら走る。 頭の中にはこうなった疑問を残しながら。 ときどき木の根っこに脚をとられるが、それでも彼がこけることはなかった。 「っは、は……っ息が!!」 肺に溜まった酸素を惜しみなく使い、駆ける。止まることは許されない。止まった瞬間待つものは死以外なにもない。 「ガルルルルル!!」 獣の唸り声が彼の背後から鳴り響く、それは一つではなく複数。 「っ!まじか!?」 言いきる前に彼の目の前の草木が揺れた。 ザっっと音をたてながら一つの黒い物体が走る彼に覆いかぶさるように飛ぶ。 「がっ!?」 押し倒されるように彼は背中から倒れた。肺に残っていたなけなしの酸素も同時に口から洩れるように出て行く。 目の前にダラダラと迸る涎を口周りに垂らす一匹の黒い狼。彼の身体の上に乗っかり眼を血走りさせながら大口を開けていた。
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