きっとそれは運命だったのかも

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落ちる牙にまだ死にたくないと抵抗するために身体を捻る。牙は空を切り、地面に突き立てられ彼その一瞬に両手を突き出し、狼を突き飛ばす。ギャインと鳴きながら宙を舞う狼を視界から消し、起き上がる。 ガツっと何かが地面を蹴る音が聞こえて彼はすぐさま左に飛んだ。数秒前まで彼がいた場所を通過するのはまたもや黒い狼。 ガチンと牙が閉じられるがそこにすでに彼はいなく、狼は横目で逃げた彼を睨んだ。 「まだゴールする気ははないんだよ!」 意味不明なことを叫び次々と飛びかかる狼の雨を避けながら彼はまた駆けた。 「っはあ!」 もうすでに一時間以上は走っているというのに狼は彼を諦める気はなく、また彼も生を諦めてない。だからなのか 「……っ!?」 そこだけ刈り取られたような森の広場に彼は出た。まるで決戦でもしろとでも言うように。 「グルルルル……」 狼の唸り声が森の中からひしめく。誘導されるように彼は広場の真ん中へと足を動かしていく。気がついた時にはすでに囲まれていた、彼に逃げ場はなく、ここまで追い詰めた獲物を逃がすほど狼は馬鹿ではない。 「……ピンチってやつだよな。最初から俺はここに誘導させられてたってわけね……」 賢い狼どもめと内心口にするが、彼の表情は優れない。狼達はまだ視界に入る場所にいないがこの広場を囲むようにいるのはわかりきっている。数は下手をすれば十を超え二十はいるだろう。正直言って囲まれた時点で彼にとっては詰み。つまり終わりのようなものだ。狼達は時間を掛け、心理的に追い込みながら彼を捕食するだろう。 「………ゲームだったらここで誰か助けてくれるんだろうかね?といってもそれがあるのはどうせ和也だけだろうな」 だが彼は諦めていない。そもそもこんな状況彼にとっては日常茶飯事と言ってもよかった。相手は人間だが……。 「いつも通りやればいい。狼だからってビビってるからいけないんだ……いつも通りの俺なら会って数秒で相手を沈めてたろ?」 自分に言い聞かせるように彼は呟く。段々と引きつった彼の表情が消えすうっと深く深呼吸した。 肺に酸素が満ちていく。息苦しかった身体も調子を取り戻し、彼は森の中を睨む。そこに潜む狡猾なる狩人達を。
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