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「僕はアリサさんを一千万払うのでいただきますと言ったはずです。僕は既にアリサさんは自分のものだと思っています。
もしアリサさんに戻ってほしいのなら、一千万返していただけませんか?小切手のままでけっこうですので」
俺の手に一千万が戻ることはなかった。
俺が渡した小切手の使い途がどうあれ、あの親の手元に全額はなかったのだろう。
一千万なんていう大金を要求されて、さらりと出せたからできたようなやり方だ。
もし返してもらえても、一度買ったものを簡単には手放せないと言えばいいだけのことだった。
別にアリサを親から引き離したかったわけじゃない。
こうすることで、アリサのことをあの両親がどう行動するのか見たかっただけだ。
「…ナオトくん、あのね…。お母さんとお父さんが…会いにきたの」
夜、ベッドの上、隣で横になるアリサは言う。
「二人一緒にいるのなんて…あんまり見たことなかった。……あたし、本当に忘れられたのかと思ってた…」
「アリサは家に帰りたい?」
「…わかんない。……でも、お父さんたちにも、帰ってきてくれないのって言われて…。うれしかった」
アリサは俺の腕に顔を埋めて言った。
「アリサがしたいようにすればいいよ。俺の家にいてもいいし、家に帰ってもいいし」
「……うん。ナオトくんのおかげ…だよね。ありがとう。……やっぱり王子様だよね」
アリサはくすくすと笑い、俺にじゃれついてくる。
「ナオトくんは王子様だよ。あたし、ナオトくんナンパしてよかった」
ふわりと笑うそのアリサの笑顔に俺も笑みをこぼす。
王子様っていうのは…うれしくはないけど。
アリサが笑ってくれるなら、それでいい。
家族の繋がりは、たぶん友達とはまったく違うもので、恋人とも違うもの。
夫婦では薄いかもしれないけど、親子では濃いかもしれないもの。
愛という言葉よりも、情という言葉のほうが適切に思う。
情けという言葉とも、どこか違う情という言葉。
俺も父に…情ではなくていいから、情けをかけてもらいたいものだ。
使った小切手とその額について、そのうち言われるだろうことを思いながら、俺は少し溜め息をつく。
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