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女が鍵を探してうろついているのがどこかおもしろく見えて、俺は鍵を隅に蹴り飛ばしてやろうとした。
その時、俺の目の前の鍵に手がのびてきた。
「あったーっ!って、ちょっと。今、蹴ろうとしたでしょっ?」
女が俺を睨みあげる。
無視だ、無視。
俺は女を無視して歩きだす。
「ちょっと待ちなさいよっ。ボンボン中学の制服きたそこの中坊っ」
完全に俺のことだ。
噛みついてくるとは思わなかった。
ひたすら無視して歩いていると、腕をいきなり引っ張られた。
目の前にさっきの女の顔が見える。
「無視すんなっ!金持ちだからって庶民を馬鹿にしてんじゃないっ!中学生のくせにっ」
うるさい。
「蹴る前だったからいいだろ。なに?金欲しいの?だから絡んでくるわけ?」
俺が財布を出そうとしたら、思いきり頭を叩かれた。
いって!
「だから馬鹿にすんなよ、この中坊がっ!あんたに恵まれるほど落ちちゃいないし、カツアゲしてるわけでもないっ!謝れっ!」
「……すみません」
あまりの迫力に気圧されて言うと、女はうんと頷き笑顔を見せた。
「言えるじゃない」
女はそれだけ言うと、俺の前を歩き出す。
俺は少し呆然と女を見ていた。
なんなんだ…?
それだけ?本当に?
女の背中を見ていると、俺の視線に気がついたのか女が振り返る。
「なに?ボンボン中学生、そんなに金恵みたいの?」
「だ、誰がっ」
「あははっ。家、どこ?駅まで一緒にいく?」
女は明るく言ってくる。
別に…、その女に興味を持ったわけでもないけど…。
なんとなく、一緒に駅に向かっていた。
「ねぇねぇ、ボンボン中学生。よく見ると、あんた、すっごい整った顔してない?モテるでしょ?」
「……」
「なに?無言?無視?髪、さらっさらだね。坊主にしちゃえば?」
「誰がっ」
「あ。聞いてるじゃない。飴食べる?」
なんて、俺はその女のペースに巻き込まれてしまっていた。
駅で別れる時には、俺の手には飴だのなんだの持たされていて。
「またね、ボンボン中学生」
なんて名前も告げずに嵐のように消えていった。
俺も名前、言ってないけど。
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