非日常な日常<臨→静>

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 金髪のバーテン服の男。彼こそが池袋最強、平和島静雄。  暴力が嫌いな喧嘩人形。 「俺が“静雄”とでも呼ぶとでも思ってるの?それとも俺に“静雄”って呼んで欲しいのかな?」  微かに血塗れたナイフを指先だけでクイッ、クイッと楽しげに揺らし問い掛けた。 「ノミ蟲が軽々しく俺の名前、口にしてんじゃ…」 「おー、いたいた。静雄、そろそろ集金行くべ」  臨也に向けて標識を振り被ったと同時に、職場の上司に当たる田中トムの声が耳に届いた。 「トムさん…ノミ蟲を殺ってからでいいっすか?すぐ終わりますから」 「集金先行くべ。これで終わりにすっからよ、終わってから好きに時間使え。な?」 「うーっす」  標識を道路に放り投げるように手放し、トムの後を追い立ち去った静雄。  忠犬と飼い主のような静雄とトムに視線だけ流す。 「何あれ…犬?」 「しっかし、あのドレッドの上司、本当シズちゃんの扱い巧いよねー…」  目を細めて小さく両手を広げては、ナイフの血を拭い音を立てずにナイフの刃をしまいポケットに押し込んだ。   つまらないよ、シズちゃん。   本当、つまらない…   シズちゃんの意識は確実に俺に向いてたのに。   完全にこっちに向いてた意識を、今、根こそぎ、あの上司に持ってかれた。   こんなにもあっさり…   高校時代にもそんなことがあったな。   腹立たしくて思い出したくもないから何もなかった事にするけど。   幽君からのプレゼントを傷物にしたっていうのにシズちゃんってば何も……まぁ、いいや。   次逢った時には忘れてるだろうし。   今度いつ逢いに来ようかな。  ポケットに手を突っ込んで黒いコートをひらり、ひらりと揺らして臨也もその場を後にした。
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