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それからは何とも盛り上がりに欠けた会話が続き、健太は先に食事を済ませて二階に上がっていった。
そして子供部屋のドアが閉まる音を確認してから、文香は慌てた様子で切り出す。
「大変よ! 一大事よ!」
彼女が取り乱すとは珍しい。
「健太がサンタを信じられなくなってるなんて……!」
「いいんじゃないか? そろそろ現実を見る年頃だろ」
「ダメよ! 見たでしょ、あの悲しそうな顔。甲子園にいくっていう夢が破れた高校球児くらい落ち込んでたわ」
「だけど、誰もが一度は通る道じゃないか」
オレだってサンタが白い髭を蓄えたおじいさんではなく、無精髭を生やした親父だと知ったときはがっかりした。
でも、そんなキズは時が経てば癒えるもんだ。
「その道は自分で見つけなきゃいけないの。他人に言われたことを鵜呑みにしたんじゃ、それはあらかじめ引かれたレールを走っているのと一緒よ」
「うむむ……たしかに」
文香の言葉には時々、人を説き伏せ、納得させる力がある。
「だがどうする? オレ達がサンタはいるって言い聞かせても、それは結局他人の引いたレールになるんじゃないか?」
「そうね。どっちを信じるかは健太自身に決めてほしい。だけど今のままじゃ、その選択肢すらあの子の頭にはないわ」
そう言って、考えること数分。
「──閃いた!」
突然彼女が立ち上がり、言った。
「名付けて【狂い咲く赤装束大作戦】!」
……名前からして、嫌な予感しかしない。
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