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そいつは、見た限り男だった。
歳は二十前後といったところだろうか。
男は窓から部屋にストンと降りると、小さく一息つく。
「おい」
「──!!」
だがオレが声をかけると、大層驚いた様子でこちらに視線を向けてきた。
着地するまで人の存在に気づかないとは、なんてマヌケなやつだ。
そんなことを考えながらも、オレは早々に男の正体を暴きにかかる。
「おまえ、泥棒だな?」
男はなぜ分かったんだと言わんばかりに目を見開いた。
不法侵入してきただけで十中八九泥棒なわけだが、なにより着ている衣服がそれを物語っている。
鼻下で括られている黒頭巾も。
あんなのを着て恥ずかしくないのだろうか?
健太をさりげなく背中に隠し、オレは男をじっと見つめる。
するとややあって。
男はゆっくりと口を開いた。
「めめめ滅相もない。ボクは風の向くまま気の向くままに流離(さすら)う旅の商人ですよ」
口調はかなり動転している。
旅の商人って……いつの時代だ。
どうやら、あまりこういった状況には慣れていないらしい。
大方今日初めてのターゲットに選んだのが、オレ達家族が暮らすこの家だったのだろう。
「今なら見逃してやる。おとなしく帰れ帰れ」
なんだか通報するのも哀れに思えたので、手を払って来た道をそのまま辿るよう示す。
「わっかりました。失礼します」
男はイソイソと窓から降りていった。
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