桃園の誓い‐劉備玄徳

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「いや、そんなに買いかぶられても困ります」 劉備は謙遜して言った。 「翼徳、何の話をしていたんだ?」 「こちらの劉さんと政治の話を少々」 「政治の話?翼徳には政治と学問の話は無縁だと思ったがな」 関羽は笑いながら張飛をからかった。 「ガハハハ。俺だって政治の話ぐらいするさ」 張飛はすまして酒を飲んだ。 「劉さんはいかがですか?」 「わたしですか?わたしも張飛殿と一緒です。わははは」 劉備は笑いながら関羽に答えた。まだ自分を隠しているのだ。 「なるほど。しかし、いい剣を持っていますな。その剣はどうされたのですか?」 やはり関羽の眼力は鋭い。 「これですか?これは父の形見です。わたしの父は早くに亡くなりまして母がわたしが二十歳になった時に渡してくれました」 「ほぅ…見せていただけますか?」 「いいですよ」 劉備は関羽に母から譲り受けた剣を渡した。 「ほぅ、これは立派な代物ですな。お父さんはさぞかし名士だったんでしょうな?」 「いえ、いえ。しがない筵売りですよ。もしかしたらその剣は誰かにもらった物かもしれない」   劉備は関羽のことをあまり知らないので慎重に答えた。               「劉備さんと言いましたか?そろそろ帰ってもらった方が良さそうだな。翼徳よ、玄関まで送ってやれ」 「えっ、関兄ぃ。いったいどうして?」 張飛は劉備にいきなり帰れと言った関羽の真意が解らないのだ。 「この人は本音を語らない人だ。せっかくわたしが腹を割って話そうと思っているのに。惜しい人物ですな」  
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