桃園の誓い‐劉備玄徳

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ここは啄県の楼桑村。片田舎の小さな村だった。ここに英雄が起こるのである。英雄は筵(むしろ)草鞋(わらじ)を売って生計を立てていた。 「さあ、さあ、見てらっしゃい。寄ってらっしゃい。丸劉印の草履だよ。筵だよ。 草履は履きやすいのなんの。筵は過ごしやすいのなんの。めったにない代物だよ。さあ、さあ買わなきゃ損するよ」 「ほい、買った」 「わたしも」 「こっちにも」 草鞋や筵はすぐに完売してしまった。 「あ~っ、こんなに売れるならもっと作っておくんだったなぁ」 英雄は草履を売って稼いだ、だら銭を空に放り投げた。ぶつかり合った小銭はきれいな音を立てた。 英雄の名前は劉備玄徳。近所では有名な草履職人である。劉備の作った草履や筵は飛ぶように売れた。 「さあて、完売しちまったから、おっかさんのために何か買って帰ろう」 劉備は川を下って行って、時々来る行商人の所へ行って見ることにした。 行商人から物を買う方法は簡単。村を流れる川から下って来る行商人に手を挙げて呼び止めるだけである。 劉備が土手を下りて行くとタイミングよく行商人がやって来た。 「お~い、お~い。止まってくれ」 劉備は大きく手を振り大きな声を上げた。 「何だ?何か入り用か?」 下って来た行商人は劉備の身なりを上から下まで眺めた。お金を持っていそうか検分したのである。 「お茶を買いたいのだ。お茶を売ってくれ」 「お金はちゃんと持っているのか?ひやかしはごめんだぜ」  
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