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「ひやかしじゃあない。金はほら、このとおり」
劉備はお金の入った巾着を振ってみせた。
「いいだろう。おーい、船を止めろ」
「うぃ~す」
行商人を乗せた船は川岸にいる劉備の前に止まった。
「それで、お茶が欲しいんだったな?」
「そうだ。家で待っているおっかさんに買って帰りたいんだ」
「おっかさん?孝行息子じゃないか?偉いっ」
行商人は母親のためにお茶を買うという劉備に感心してみせた。
「金を見せてみろ?」
「実はこれだけなんだ」
劉備は草鞋を売って稼いだお金を巾着から取り出して見せた。
「う~ん。これだけか?」
「おっかさんのためなんだ。頼む」
劉備は手を合わせて拝む真似をした。
「俺は孝行息子には弱いんだ。仕方があるまい」
行商人は劉備のために多めにお茶の葉を渡した。
「ありがとう。うちのおっかさんも喜ぶよ」
「おっかさんによろしくな。しかし、いい剣を持っているな?」
「あははは。父の形見なんだ」
劉備は行商人と別れ、楼桑村の自宅に帰ることにした。
帰り道、幾人かの黄巾賊たちとすれ違った。
(今日はやけに黄巾賊が多いなぁ…)
黄巾賊とは張角という貧しい青年が南華仙人から太平洋道という巻物をもらい広めた教えだ。
貧しい農民たちにただで治療を施したものだから、張角の教えは瞬く間に広まっていったのだ。
黄巾賊の首領らしき男が指図していた横を劉備はすり抜けようとした。
「ちょっと待った。どこへ行こうとしている?」
劉備は腕を掴まれてしまった。
「あっ、いや。家へ帰るところです」
劉備はまずいことになったと思った。
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