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「やっぱり寒いの? もしかしてまだ風邪治ってないんじゃない?」  佐伯の視線が武蔵を貫く。  武蔵が「え?」と声を漏らしている間に佐伯は自らの隣に置いてあるスポーツバックのファスナーを滑らせ、中から一枚のジャージを取り出した。 「こんなエアコンガンガン効いてる所で薄着してたら体に良くないよ。これまだ着てないキレイなやつだから、羽織ってなよ」  心配そうにジャージを差し出す佐伯はまるで、お姫様にシルクのショールを差し出す王子様のように武蔵には見えた。  けれどそれは決して大袈裟な表現ではないと武蔵は思った。  それほど佐伯の容姿には王子と呼ぶには相応しく、凛々しいものがある。  武蔵は思わず受け取ってしまいそうになる手を咄嗟に抑制した。 「お前はおれの母さんか。大丈夫、ジャージならおれも替えの一枚持ってるから、それ着るよ」  自分のバックから青と黒のジャージを取り出して羽織る武蔵に、佐伯は安心したように自身のそれをバックにしまい込んだ。 「せっかく人が心配してるのに母さんはないだろ?」 「ごめんごめん。気持ちだけ受け取っとくよ、サンキュ」 「もう寒くない?」 「うん」 「まあ、武蔵が元気ならいいんだけどね」  羽織っていたジャージに袖を通して武蔵は小さく俯いた。  差し出されたジャージを受け取らなくて良かったと思う反面、後悔の念も武蔵の中で渦巻いていた。  けれど、そうして佐伯から上着を受け取って良いのは自分ではない。  武蔵はしばらく意味もなく料理を見つめていた。 「優しすぎるんだ……」  ぽつりと溢された武蔵の呟きは微かに空気を震わせ、辛うじて佐伯の耳に届く。 「ん? 何?」 「いや、何でもない。それより早く食おうぜ」  割り箸の両端を摘まみ、左右に引くと、少しいびつな形で二つに割れた。
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