2721人が本棚に入れています
本棚に追加
上空を大量のカラスが隙間なくうめつくし、大きな竜巻のように旋回していた。
広大な空が真っ黒に染まっている。
不幸を告げるためではなく、積み上げられた人間の屍肉をむさぼるために、カラスたちはそこにいた。
──どんな時でも、死骸はひどい腐敗臭をただよわせる。
それは、同じ人間だったことを忘れさせてしまうほどのもの。
だが、それ以上にひどい存在はこの世にごまんとある。
さきほどまでそばにいた戦友が、頭を撃たれて死ぬ音。
そこからただよう血の臭い。
耳をつんざく爆音。
地雷で体を失う同志。
死にゆく兵士の行軍。
戦闘機のうなり声。
土をかぶせた粗末な墓。
子供の泣き声。
止むことのない銃撃戦……
──そんな中に、彼は立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!