序章:戦場に降り立つ子

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 頭に髪こそ無いものの、くつも、ズボンも、上着も、手袋も、ベルトも、ガスマスクも──全て黒。真っ黒。  まるで本物のカラスのようだと確信できるほどに。不幸の形容そのものだと気づかせるほどに。  そして、戦うためでなければ、なぜあの少年はここに立っているのだろう、という疑問が、彼の頭の中でうずまいていた。  幼い少年がここにいること自体が不自然なのに、バリケードの上に立っている。  普通ならとっくに死んでいたところだ。  得体のしれない不気味さが空気を伝って、ピリピリと肌を焦がしていく。  彼らがしばらく見ていると、その少年はかぶっていたガスマスクを右手ではぎとり、足もとに落とした。  少年の足元に砂ぼこりがたつ。  するとその時、少年の狂気が噴出し、あまたのものがあふれだした。  殺気、闘気、狂気……。  そんな邪悪なものが、純粋な心を持っているはずの少年から空間を流れておそいくる。  兵士は思わず息をのんだ。  生まれてからいちどとして味わったことのない恐怖が……  今、目と鼻の先にある。  その威圧感に動くことさえままならない。  そして、彼の視線は少年の顔にひきつけられた。  褐色の肌なのに、白人の顔立ちをしている。 〔なんて不気味な……〕  不自然極まりない。  そして目は……黒。  少し茶色がかっているなどという問題ではなく、生粋の黒。それは、レンズと光彩の見分けがつかないほどに。  その上を光が反射して、ギラギラとゆらいでいる。  兵士は、相手が捕食者で、その目が自分を狙っているような力の差を感じた。  彼がおびえながらも直視していると、少年は足を前にふみだした。  一歩ずつ大地をふみしめ、歩いてくる。  そして、ふみだすに比例して、恐怖が増していく。  それは、少年が兵士から十数メートルと離れていないところで最高頂になった。 「あ……」  つい声がもれる。 〔アイツハ……キケンダ……〕  彼の生存本能が言う。 〔コロセ……〕  彼はガタガタふるえる手で銃をかまえた。  少年に銃口をむけて。
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