自動販売機~孤高の黒猫~

5/9
前へ
/74ページ
次へ
晶「………自販機がなんだか知らないのか?」 命「そっ、そんな訳ないでしょ!」 命「知ってるわよ自動販売機くらい、常識でしょ?」 晶「いや、まぁそうなんだが…………」 そこまでムキに否定する必要も無いだろう。 まぁ、携帯電話は知っていたしな、いくら箱入り娘だったとしても、さすがに自販機くらいは知ってるか。 命「自動で販売してくれるから、自動販売機でしょ?」 得意げに言う命。 晶「そうだが」 読んで字の如くだな…………。 ………………。 晶「ちなみに、あそこの自販機は何を自動で売ってくれるか知っているか?」 命「えっ!?…えと、それはぁ~…………」 きょろきょろと視線が泳ぐ。 感情が表情に出やすいせいか、面白いように焦っているのが分かる。 命「あっ!」 何を思いついたのか、ポンと手を打ち、命は目を輝かせ、声高らかに言った。 命「缶詰!」 晶「……………………」 缶詰……………ね、確かに似てるし、売って無い事も無いだろうが………。 というか、缶詰を知っているのに缶ジュースを知らないってどういう事だろう。 どっちがよりポピュラーなのか。 謎だ。 命「もしかして……………違ったかしら……?」 晶「違う」 命「うっ、嘘!?」 嘘ってあんた。 まさか本当に知らないとは………。 命「え、えぇ~と、今のは、その、本当に知らないって訳じゃなくてね?……その、缶詰がね?自動販売機で…………」 知っていると言った手前、ばつの悪そうに視線を泳がせ、無意味な言い訳を繰り返す命。 その顔は羞恥の色に染まっている。 ため息が出る。 墓穴を掘るとはまさにこの事。 ……………? 違うか? 晶「知らないなら知らないと素直に言え、別に悪い事じゃないから」 常識として問題あるとは思うが。 命「で、でも…………」 晶「言い訳は見苦しいぞ」 命「うっ…………仕方ないじゃないそんなの、自動販売機なんて使った事ないんだから」 膨れ、そっぽを向く。 まぁ、確かに仕方ないのかもしれない。 聞いた話によると、命はこうして夜に家を抜け出してくる以外、まともに外に出た事がないらしい。 外に出なくても、欲しい物はすぐ手に入り、家の庭も十分広いらしく、遊び場には困らなかった様だ。 つまり、自販機の缶ジュースなんて買う必要が無い。 自販機という存在すら知らなくても生活が成り立つ。 …………今思えば、それって相当金持ちって事か?
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加