自動販売機~孤高の黒猫~

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命「………それで間に合ってる、という事?」 晶「そういう事、だから俺が人間の医者になる必要は無い」 命「だから獣医に?」 晶「違う」 ずるっ。 素でベンチからずり落ちそうになる命。 相変わらず面白い子だ。 良いところのお嬢様のはずなのに、この反応は逸材だ。 命「なら、どうして獣医になろうと思ったのよ!」 怒っていらっしゃる。 ………相変わらず心の狭い小娘だ。 このまま少し遊んでやってもいいのだが、止めておこう。 晶「悔しかったからだ」 とりあえず素直に答えてみる。 命「悔しかった?」 晶「そうだ」 命「悔しくて獣医になりたいの?」 晶「そうだ」 命「ふ~ん………そうなの………」 それきり、命の質問が止まる。 晶「…………終わりか?」 命「えぇ、とりあえず………余り聞いて欲しくなさそうだったから」 晶「………そうか」 そういう訳でもないんだが………。 いや、まぁ…………いいか。 『バキュンバキュンバキュン』 ポケットの中で戦争が起こる。 ビクッと銃声に反応する命だったが、流石に二回目となると慣れが生じるのか、すぐに落ち着きを取り戻す。 ポケットから携帯を取り出す。 命「…………その悪趣味な着信音、止めなさいよ」 非難の声が挙がる。 とりあえず無視。 相手を確認し、通話ボタンを押す。 晶「どうした姉さん?」 電話『ご飯』 電話『ブッ――ツーツー』 晶「…………………」 またか。 またこのパターンか姉さん。 ったく、いい加減飯くらい一人で作れる様になれよな。 携帯をしまい、立ち上がる。 命「帰るの?」 晶「あぁ、昨日今日と珍しい事に家に待ち人がいるんでな」 命「…………そう」 晶「………俺は帰るが、命は?」 命「私?」 命「私は………」 ベンチに座ったまま、命は空を見上げる。 俺もそれに習う。 確認するまでもなく、空一面に広がる星々がそこにあった。 命「………もう少し、星を眺めてるわ」 晶「…………そうか」 じゃ俺は帰る。 そう言って俺は公園の出口に向かう。 とりあえず、今日の晩飯は何にしようかなと考えながら。 命「晶!」 晶「ん?」 あと数歩で公園の外に出る頃。 その声に振り返る。 命はベンチに座ったままこちらを見ていた。 晶「なんだ―!」 距離が距離なので、自然と声を張り上げる形になる。 命「また、話し相手になってくれる―?」 よく通り、よく響く声が夜の公園に響く。
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