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朱璃はキョトンとして『今初めて気づいた、晶賢い!』とでもいうような表情を浮かべた。
朱璃「いい子いい子」
そして笑顔で俺の頭を撫でる。
……………。
あんたそろそろ二十八歳だろ………。
相変わらずとんでもねぇな。
まったく、これでこの町屈指の医者だっていうのだから世の中間違っている。
あ~あ、よく見たら制服破けてるじゃねえか………。
縫わないとなぁ~……。
朱璃「晶」
晶「………ん?」
所々破れほつれた制服の上着を脱ぎながら、返事を返す。
朱璃「ご飯」
晶「…………………」
嫌味の欠片もない、純粋無垢な眼差し。
ただ無心に腹が減っている人の表情。
くぅ~んと朱璃の腹の虫が鳴いている。
その顔と、破れ汚れ無残な姿になった制服を交互に見る。
考えるべき事が沢山あった。
理解不可能な事態をこの身が体験した。
ぐるぐると思考が渦を巻く。
そういえば晩飯の支度をしていないとか。
凜が言う答えとは、一体なんなのかとか。
そういえば裁縫道具はどこにあったんだっけとか。
あの赤い空の事とか。
この姉が一体どうすれば常識というものを理解してくれるのかとか。
本当に色々と考えるべき事がある。
姉さんの腹の虫が鳴く。
とりあえず、決断を―――下す。
晶「姉さん、飯抜き」
朱璃「―――!?」
――こうして夜はふけていく。
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