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目は決意に満ちていた。
ところが校門を出て左に曲がった瞬間にその目が捉えたものは翔太をうろたえさせた。
数メートル先にいるのは紛れもなく天音である。しかも横には男の姿があった。翔太はその男が誰なのかすぐにわかった。
3年D組の新木涼太。ルックスよし、頭がいい、スポーツ万能と三拍子揃っている。故に涼太に憧れている女子も多い。しかし浮気癖があり、聞く度に彼女が変わっているほどの女好きという噂もあった。
翔太は無意識に振り返り、家とは逆の道を歩き、わざと遠回りをした。単に天音と涼太が並んで歩いている姿を見ていたくなかった。見慣れない住宅街に入るとようやく落ち着きを取り戻した。
「あいつが…天音ちゃんと…」
やっと勢いがついてきた時なだけにその落差は激しかった。赤く燃える空から地へ沈んでいく落陽を見つめ、今日何度目になるかわからない溜め息をつき歩いた。気付くともう家の前だった。
「ただいま…」
「お帰り。もうご飯できてるから食べなさい」
「あぁ」
いつも通りの母の声がする。翔太にはそれさえも多少暖かく聞こえた。
翔太はその日夕飯を食べていても風呂に入っていてもボーッとしていた。
(やっぱ無理なのか…)
完全に意気消沈だった。
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