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学校から帰って来て20分。
寮のドアチャイムを鳴らしたのは、同じクラスの幼馴染みだった。
「な、頼むよ!幼馴染みのよしみでさー」
「……また宿題ですか?」
「さすが!話が分かる!」
「…帰って来てまだ20分しか経ってないんですよ。部活だってしているんです。それなのに、既に全て終わっていると思っているんですか?」
「だって大体授業の合間とかにやってるじゃんかよー」
「……………まあ、いいでしょう。待っててください」
やりィ、と小躍りしている友人を尻目に、部屋へとって返し、バッグからノートを数冊抜き出して玄関に戻る。
「バレたら僕も共犯なんですからね、そこのところ、きちんと理解してくださいよ。…まぁ、君が自力で宿題をやっていないことがバレた例はありませんが」
「任せとけって。…あ、忘れるところだった。うちのお袋がお前に、小遣いだって」
友人が差し出した握りこぶしには、1万円札が5枚。
「……本当にいいんですか?今週3回目ですよ」
「いーのいーの。いつもより少ないくらいだろ?」
「…おばさんによろしく伝えてください」
僕がお小遣いを手に取ったのを目と手でしっかり確認すると、幼馴染みは廊下を走っていった。
部屋に帰り、さっきのお金を財布に入れると、夕飯の準備を整えていた食卓に着く。
主食、主菜、副菜。その中に、写真のない写真立てが1つ。
中には僕の名字『千駿』と書かれた紙が入っているだけ。
「名前も、顔も知らない、父さん、母さん……今日も一日、無事に過ごせました」
手を合わせ、食にありつこうとした時、またドアチャイムが鳴った。
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