序章

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 仕方なく立ち上がると、玄関の扉を開く。 「…どちら様ですか?」  外に立っていたのは、見知らぬ少女だった。  制服が違うから、この学園の生徒じゃない。 「…あの…道に迷ったんですか?」  寮に住む人間を訪ね、道が分からなくなった人は少なくない。実際、この学園は異常に広いのだから。 「………さっき、お友達が来てた時から、見てた」 「……?」  話の違和感。  さっきって…幼馴染みが来た時? 「あなたの眼…」 「僕の…?」 「まっすぐで、どこまでも深い…」 「……はぁ」 「不思議…なんとなく、落ち着く」  話がはぐらかされていることに、やっと気付いた。 「…あの、ここは私立東芽学園の寮です。制服を見る限り、貴女はここの生徒ではないですよね?」 「…なんとなく、あなたに会えてよかったと思う」  …………話が噛み合っていない。  この不可思議な少女は、一体… 「……ありがとう。最期に、あなたみたいな人に会えてよかった」 「……………え?」  言葉の不自然さに気付いた時には、既にその少女はかき消えるように消えていた。  自分がぼーっとしていたせいでそう見えたのか、あるいは… 「………あ」  思い出した。  僕は彼女に会ったことがある。  以前、近くの図書館からの帰り道で。  人混みの中ですれ違った、あの少女の横顔。  人形のように整った綺麗な顔は、一目見たら忘れられないだろう…普通の人間ならば。  僕は、その美しい顔立ちの中に、大小様々な憂いと『あるモノ』を見てしまった。 「……彼女とは、近い内に…また会うことになりそうですね」  彼女が最後に残した、「最期」という言葉が事実ならば。  彼女の中に見た『アレ』が、見間違いでなかったから。  
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