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冷たい風が頬を撫でる
目の前には、闇が広がっていた
そんな暗闇に侵される事なく、頭の中は妙に冴えている
何をする訳でもなく、その場に立ち尽くしていると、どこからか「声」が聞こえてきた
「…………っ」
「声」だという事は分かる
だけど、それを「言葉」というのは難しい程、不鮮明で篭ったような「声」
「………い…」
最初は何を言っているのか分からなかったが、次第にそれが「言葉」へと変化していく
「葵!!!」
それを聞いた瞬間、声がした方向へ体を向け、一気に地面を蹴った
自分が出せる力を全て使い、手足を動かす
暗闇の中、頬に触れる冷たい風だけが、前に進んでいるという事を証明している
…早く…早く…早く…
焦りが込み上げてきた
胸が締め付けられる様に苦しい
…ドクン…ドクン…
まるで警報の様に耳元で心臓が拍動する音が聞こてくる
「急げ」
「一秒でも早く」
そう言っている様に感じて、泣き出したくなった
くそっ
歯を食いしばる
こんなに全力で走っているのに
なんで着かないんだよ!
そんな自分がたまらなく無力で、吐き出す息と共に言葉にならない声が漏れた
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