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「…お兄、ちゃ………」
雪の、悲しいような表情が瞼に焼き付いて消えない。
それを言い訳するように、黒い感情が胸の奥から溢れ出す……
(……そうさ。これで自由になれるじゃないか)
これで…『雪』という個人から解放される。
雪が原因なのだから雪が全て悪い。
だから裕一は、俺は悪くない…むしろ俺は正しいことをしたのだと思い込んだ。
「……」
――なのに、どうして呆然としてるんだ…?笑えよ…ようやく自由になれるんだぞ。
「笑えよ、俺…………はははは……はははははははは……あっはっはっはっはっはっは!」
……笑いは麻酔かもしれない。
無理矢理の笑いは、最後には本当の笑いになっていた。
―プス、…
「あ…ッ!?」
すると、首筋に鋭い痛みを感じ、裕一は顔をしかめた。
ふと、雪が倒れていた所に雪がいないことに裕一は気付いた。
次に、裕一は視線を首筋に注目した。
そこには注射器が刺さっており…なにか白く濁った液体を注入されている。
「雪……お前……!」
見上げると、雪の無表情が裕一を見下ろしていた。
「ぁ…」
…目が合う。
「…………………………………………………………」
今の雪の黒く濁った瞳からは恐怖のみしか感じられない。
「雪…」
――意識が遠のく中、雪に後ろから抱きしめられた…
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