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『なぜ私を憎まないの?』
この部屋へ移動している最中に聞いた。
少年か少女か分からない人間は唯一自由のきく口で不安と恐怖を含みながら、しかし努めて明るい口調で答えた。
『何で憎む必要があるんですか?あなたは何も悪くないのに』
『こうなったのは全て私のせいだからよ。今もこうやって、あなたに苦痛を与えようとしている。それでも私は悪くないと言える?憎まないの?』
我ながらバカだと思った。
これでは憎んでほしいと言っているようなものではないか。
憎んでほしいわけがないのに。
自分で自分を追い詰めようとしている。
いや、もしかしたら一思いに楽になりたいだけなのかもしれない――――。
しばらく沈黙が続いた。
見ると、肩が微かに震え、目隠しが濡れていた。
なぜ泣いているのか、彼女には分からなかった。
息を飲み、様子を見守る。
そのまま部屋の前に着くまで、人間は泣いていた。
その間、彼女は一切声をかけなかった。
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