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午後9時ちょうど、子供を寝かしつけ寝室を後にする。
昔の自分ならば考えられないような行動に、自嘲にも似た笑みが、フッと零れる。
「あの子は、ちゃんと寝ましたか」
「ええ、しっかりと」
ノックと共に開いた扉へ投げかけられる質問に応えながら、部屋へと入る。
膨大な書類以外には、必要最低限な物しか置かれていない部屋は、持ち主の性格を表すようだ。
「お疲れ様です。コーヒーでも飲みますか」
「結構よ。眠れなくなるわ」
「でわ、別な物を用意させましょう」
そう言いベルを鳴らし、一言二言使用人に告げ、暫くし持ってこられたのは、湯気の立ち上るミルク。
「あの子の様子はどうですか」
「元気よ。でも、貴方と会えなくて、寂しがっていたわ。研究、まだ終わらないの」
「今やっている書類が終われば、少し落ち着きますが…やはり、当分先のことになりそうですね」
「あまり無理はしないでね。貴方に何かあったら、あの子が悲しむわ」
「おや、貴方は悲しんでくれないんですか」
「あら、今更でしょう」
悪戯そうな目で訊ねる彼に、同じように返す。
昔の自分が見たらなんて言うだろう、あまりにもありえない行動に、自嘲にも似た笑みが零れる。
飲み下したミルクは、甘い味がした。
―それは、ありえた未来――
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