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どうやら妹が来ていないことに気づいたようで、兄は立ち止り、後ろを振り返った。
だけど、兄はそれと同時に重大なことを見落としてしまった。いや、それがあったため、と言って良いだろう。
信号が変わろうとしていた。先を急いでいるのか、車が左折してきている。普通に歩いている状態でも避けれるかどうかの速度。ブレーキは踏んでいないような曲がり方だった。
回避行動を試みれば、何とか回避できる時間はあった。でも、少年は幼い。そして、最も最悪なことに少年は硬直してしまう。あれじゃ避けられるものも避けられない。
………この子も一人になるのか?
少女は何も分かっていないのか、未だに膝を擦りながら泣きじゃくっている。それなら――
「お譲ちゃん、ちょっとこれ預かっててくれ」
俺は澪の私物が入ったバックを少女の傍に置いて駆けだす。少年との距離はそれ程離れていない。頑張れば助けられる距離だ。
思いの外、車の速度は落ちていない。少年に気付いていないのかブレーキを踏んでいないように見える。
「くそっ!」
俺が走って少年を抱きかかえて回避する時間は無い。
自然と脚が地面を蹴り、身体が推進力を持って宙に浮く。右手がその推進力を持って前に出る。
車はもう目の前にまで迫っている。
だけど、確かに俺の右手は少年に触れ、少年を車の軌道上から逸らすことが出来た。残ったのは俺だけ。
そこで俺の意識はホワイトアウトした―――
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