0.小間話

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 現在時刻は七時を少し回ったところか。七月の上旬とはいえ、この時間帯になると辺りは急に暗くなってくる。  夏の夜というのは昔から変わらず奇妙な空気を孕んでいる。  暑さの名残と夜の冷気が溶け合い生暖かい大気を形作っているからだろうか?  昼と夜、陽と陰。  それが先の見えない暗闇の中で混在するせいで、怪しい雰囲気を漂わせている。  成る程、怪談が夏の風物詩の常連であるのも納得がいく。  人間が立ち入ってはならない領域。不可侵の混沌。触れたら魂を奪われてしまう。  しかし、人間の性というものは恐ろしい。  好奇心が理性を軽々と凌駕するのだから。  本能的な恐怖さえも『怖いもの見たさ』にすり替えてしまうから益々もって質が悪い。  皮肉にも好奇心の源たる知性は、原始的な恐怖を克服するために発展を繰り返してきた。  まあ、過ぎた好奇心は身を滅ぼすだけだが。
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