『老獪vs豪腕』

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パキンッ それはキセルの折れた音だった。 マッサージ師は額でキセルを受け止めたのだ。 次の瞬間、マッサージ師の揉みが古書店の胸に突き刺さった。 勝った!! マッサージ師は確信した。 しかし、手から伝わる妙な感触に気付いた。 後ろに吹き飛ばされながら笑みを浮かべる古書店。 その破れた懐から現れた1冊の本。 くっきりとマッサージ師の指痕が付いている。 宙に浮くその本には、こう書かれていた。 『Bible』 同じく宙に浮いたままで聖書をキャッチした古書店。 すぐさま飛んだ古書店を追うマッサージ師。 両腕を広げて古書店を追い詰める。 細い目をカッと見開いて聖書を投げつける古書店。 しかし、聖書は力なく宙に舞い、いとも簡単に避けたマッサージ師は、古書店の脳天を両手で捉えていた。 「自主リタイアしてもらえないか?」 「ホッホッホッ。甘いのぅ…甘いのぅ…。これで終わりと思うてか?」 精一杯のブラフ。 残る武器はただ一つ。 贖罪の為の信仰。 いや、それすらもたった今、自分は投げ捨てたのだ。 「そうかい…ぬんっ!!」 グキィッ!!!!! 脊椎の折れる音。 「結局…あんたは最後まで俺を殺す気はなかったんだな…。あんたを調子づけにしようした自分が恥ずかしいぜ…」 マッサージ師はグシャグシャになった店内の床に古書店を寝かせると、胸に聖書を置いて、その上に両手を組ませて置いた。 マッサージ師は両腕を元に戻す秘ツボを押すと、古書店の亡骸に向かって十字を切った。 携帯が鳴る。 最初の脱落者を告げる為に。
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