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赤いロングドレスのような服のスナックのママの姿に魚屋は見惚れていた。
おそらく30代後半だろうが、魚屋にとってはドストライクだ。
不意にスナックのママがアイスピックを取り出した。
「はっ!!」
魚屋は我に還り、素早く腰の刺身包丁2本を両手に構えた。
「やぁねぇ…物騒なもんはしまいなさいな。氷を割るだけよ。せっかく来たんだから飲むでしょ?」
スナックのママはアイスボックスをカウンターの下から取り出すと、氷を割り始めた。
「ウイスキー?焼酎?それともビールかしら?」
スナックのママの微笑みに邪気は感じられなかった。
それがプロなのだと言えばそれまでだが、魚屋は包丁を腰のホルダーに戻した。
「バーロォー。俺ぁ日本酒って決めてんだ。だがまぁ…ウイスキーもたまには…な」
「ふふ…ロック?」
「あぁ、頼まぁ」
カラン…
グラスに氷がいくつか入れられ、ウイスキーが注がれる。
グラスは2つ。
「私もいいかしら?」
「一人だけ飲まされちゃあ、何されるかわからねぇからな」
「あら、意外と気が小さいのねぇ。ふふ…乾杯」
「あぁ、乾杯」
コン
グラスが軽くぶつかる。
「なかなか美味いねぃ」
「良かったわ。私の用意したお酒じゃないけどね」
「ははっ、ちげぇねぇや!!」
「うふふ…」
その日、魚屋はウイスキーを2本空けた。
スナックのママの美貌と話術によって酒は進み、気が付けば魚屋は眠りについていた。
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