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スナックのママはアイスピックをカウンターに置くと、タバコに火を点けた。
銘柄はわからないが、メンソール系の香りが魚屋の鼻に届いた。
スナックのママは一言も発さずにタバコを吸っている。
「良かったのかぃ?裏切っちまってさ」
魚屋は相変わらず立ち上がれない。
「商店街バトルロワイヤル…。優勝した人が得るのは名誉、金、そして『一度だけ政府による援助を得られる』という権利。こんなもんの為に殺し合うなんて…馬鹿げてると思わない?」
そう言ったスナックのママの目は寂しげに見えた。
そう、この大会は単なるギャンブルの場ではない。
参加者はその賞品を目指しているのだ。それは人を殺す事を肯定するほどに魅力的かどうかは人それぞれだが、少なくとも参加者には魅力的なのだ。
しかし、参加者でありながら、それを否定するスナックのママは異質であると言えた。
「…それを言われちゃ心苦しいねぃ。でもよ、それでも果たさなきゃならない目的ってぇもんがあるんだよ」
魚屋の目には強い決意と、自責の念が入り混じっていた。
しゃがんだままで。
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