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好奇心は猫を殺す、という言葉がある。
自分とは違って文系科目が得意な希代子から聞いた言葉で、生命力の強い猫でさえも、好奇心に負けては身を滅ぼすのだという意味だそうだ。要するに、好奇心はほどほどにということらしい。
それはどちらかというと希代子が肝に銘じておくべき言葉だと思うんだけどなあ、と、理沙は常々思っているのだが、しかし、少なくとも今回に限っては、理沙はその言葉をよく肝に銘じておくべきだった。
自分でもわけがわからないままに授業をサボり、別棟に来た理沙は、とりあえず次の休み時間までブラブラしていようと考え、別棟での散策を開始したのだが、それからわずか数分後。
彼女は、犯罪行為の目撃者となってしまっていた。
「お……大宮」
理沙は、廊下の角から様子を窺いつつ、ごくりと息を呑んだ。
その視線の先には、二人の男子生徒がいる。
一人は、いかにも気弱そうな一年生らしき子で。
一人は、金髪にピアス、目つきの悪い顔という、いかにもな不良だった。
そしてその不良のほうは見覚えがあった……同級生だ。
大宮怜(おおみや・れい)。
ガラの悪い家族の下で育ち、ガラの悪い小中学校で生き抜いてきた、根っからのワルだ。
県立甲流高校の不良たちの頂点に立つ男で、誰もが彼を恐れている。
同級生とはいえ、理沙も大宮との関わりはほとんどなかったし、あってほしくもなかった。
そしてその大宮が今何をしているのかというと、まあ要するに暴力行為だ。
一年生らしき生徒の胸倉を掴み、壁に押し付け、空いた拳を握り締めている。
すでに何発か殴られているのか、一年生らしき生徒は唇の端から流血していて、さらに目の下には青あざのようなものができていた。
どういう過程でこうなったのかは知らない。
大宮がイチャモンを付けて呼び出したのだろうとは思うが、しかし理沙がこのとき抱いたのは、とんでもない場面に出くわしてしまった、という激しい後悔だった。
大宮は札付きのワルだ。
ケンカの結果、何ヶ月も立てなくなるようなケガを相手に負わせたことも一度や二度ではないと聞く。
だけどそんなワルだと分かっていても、こんな現場を見てしまったら――――助けに行かずにはいられないじゃないか。
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