第三章 目撃

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「言ってみろよ。アイツら、俺に何もできねえよ。みんな俺が怖いんだ」  まるで肉食獣のような、余裕と尊大さに満ちた笑顔を浮かべながら、大宮は言う。  ……確かにそうかもしれない。  大宮が暴れだすと始末に負えない……そう、職員室で教師同士が話しているのを聞いたことがある。  実際、大宮はキレたら何をするか分からない危険な男だ。  しかし今、自分は、そんな危険な男と二人きりになっている。  ……自分の人間的小ささが嫌だ。  授業をサボったのも、今危機に陥っているのも、すべて自分が弱くて小さいから。  不満に対して妥協する強さも、見て見ない振りを押し通す強さも、自分は持っていない。  だけどもう、後戻りはできない。 「真面目ぶってんじゃねえよ。神木ぃ、知ってるか? お前、男子の間じゃ淫乱で通ってるんだぜ? 津田と毎日のようにセックスしてるってみんな知ってんだ、雌豚」 「……っ!」  かあっ、と、怒りと羞恥とで顔が一気に赤くなるのを感じる。  胸の奥が熱くなり、体温が上がっていくようなそんな感覚だ。  ……祐平とたびたび一夜を過ごしていることは事実だ。  だけどそれは祐平との深く強い愛があるからだ。その結果にすぎない。  それを……それを、何も知らないで、ただ性欲に狂っているかのように言うなんて――――私と祐平のこと、何も知らないくせに! 「なんでそんなツラしてんだよ。俺が何か間違ったこと言ったかよ。いいからてめえ、さっさと帰れや。何でこんなとこいんのか知らねえけどよ、てめえに俺のことをとやかく言う資格なんかねえっつーの、この肉便器女」  その瞬間。  理沙の頭の中で何かがプッツンと音を立てて切れた。  怒りに任せて振り上げた拳を、大宮めがけて繰り出す。  ……それがすべての始まりだった。
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