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「いてえ! 何すんだこのアマ!」
理沙は死に物狂いで大宮の腕に噛み付き、彼が怯んだ隙に逃走を図った。
しかし、女子の中では足が速いほうとはいえ、男子であり身体能力も高い大宮から逃げ切れるわけもなく、すぐに腕を掴まれてしまう。
そしてそのまま、廊下に引き倒されて馬乗りになられた。
その瞬間、犯される、という恐怖が一気に色濃くなる。
そしてその予感が間違っていないことを、理沙は大宮の台詞から知った。
「俺がいい女に調教してやるよ。今の男なんか忘れられるようになぁ!」
この男……最低だ。
獣同然だ。
いや、だからこそ、小中高と常に不良たちの頂点に立つことができたのだろう……圧倒的な力と、それがもたらす恐怖によって。
「やめろ!」
……どこか遠くから、聞き慣れた声がする。
いや、そんなのは空耳に決まってる。
祐平は二年生教室にいるのだ……別棟での出来事に気付くはずもない。
ドラマじゃあるまいし、恋人のピンチに常に気付き、駆けつけることなどできるはずもないのだ。
このまま大宮に犯されても……祐平は、私を愛し続けてくれるだろうか。
そして私は、祐平と変わらず接し続けることができるだろうか?
「理沙から……俺の女から離れろ!」
まただ。
また、祐平の声が聞こえる。
そんなはずはないのに――
「バカ野郎!」
そのとき。
圧し掛かっていた重みが、一瞬にして消えた。
少し遅れて聞こえる、廊下を誰かが転がる音。
ハッとして視線を動かすと、大宮が横でうずくまっていた。
「心配かけんなよ……理沙」
「あ、ああ……あ」
こちらを咎める口調とは裏腹に、安堵の表情で手を差し伸べているボサボサ頭の男子生徒。
紛れも無く、それは祐平だった。
どうしてここに、とか、そんな疑問は完全に吹っ飛んでいた。
ただ、祐平が駆けつけてきてくれたというその事実に、打ちのめされた。
体が震える。
それは恐怖ではなく、喜びによるものだ。
ドラマでもないのに。まるでドラマのように、ピンチに気付いて駆けつけてくれた。
やっぱり、やっぱり祐平は……私の理想の、王子様だ。
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