第四章 危機

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「いてえ! 何すんだこのアマ!」  理沙は死に物狂いで大宮の腕に噛み付き、彼が怯んだ隙に逃走を図った。  しかし、女子の中では足が速いほうとはいえ、男子であり身体能力も高い大宮から逃げ切れるわけもなく、すぐに腕を掴まれてしまう。  そしてそのまま、廊下に引き倒されて馬乗りになられた。  その瞬間、犯される、という恐怖が一気に色濃くなる。  そしてその予感が間違っていないことを、理沙は大宮の台詞から知った。 「俺がいい女に調教してやるよ。今の男なんか忘れられるようになぁ!」  この男……最低だ。  獣同然だ。  いや、だからこそ、小中高と常に不良たちの頂点に立つことができたのだろう……圧倒的な力と、それがもたらす恐怖によって。 「やめろ!」  ……どこか遠くから、聞き慣れた声がする。  いや、そんなのは空耳に決まってる。  祐平は二年生教室にいるのだ……別棟での出来事に気付くはずもない。  ドラマじゃあるまいし、恋人のピンチに常に気付き、駆けつけることなどできるはずもないのだ。  このまま大宮に犯されても……祐平は、私を愛し続けてくれるだろうか。  そして私は、祐平と変わらず接し続けることができるだろうか? 「理沙から……俺の女から離れろ!」  まただ。  また、祐平の声が聞こえる。  そんなはずはないのに―― 「バカ野郎!」  そのとき。  圧し掛かっていた重みが、一瞬にして消えた。  少し遅れて聞こえる、廊下を誰かが転がる音。  ハッとして視線を動かすと、大宮が横でうずくまっていた。 「心配かけんなよ……理沙」 「あ、ああ……あ」  こちらを咎める口調とは裏腹に、安堵の表情で手を差し伸べているボサボサ頭の男子生徒。  紛れも無く、それは祐平だった。  どうしてここに、とか、そんな疑問は完全に吹っ飛んでいた。  ただ、祐平が駆けつけてきてくれたというその事実に、打ちのめされた。  体が震える。  それは恐怖ではなく、喜びによるものだ。  ドラマでもないのに。まるでドラマのように、ピンチに気付いて駆けつけてくれた。  やっぱり、やっぱり祐平は……私の理想の、王子様だ。
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