第一章 悪夢

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 体の自由が効かないのはどうしてだろうと思ったら、両手足を縛られていた。  冷たい鉄の感触が、剥き身の手首と足首に染みる。  しかし冷たいのは手足だけではなかった。  首元にも同様の感触……首輪のようなものを付けられているらしい。  だが、それ以外の感触がない。おかしい。普段は意識しない、あって当然の感触……そうだ。衣服の感触が、まるでない。  ……固定された首をできるかぎり持ち上げ、自分の胸や腹を見る。  そこで、自分が一切の衣服を身に着けていないことに気付いた。下着も含めて、だ。  しかしそのことに羞恥心を覚える余裕はなかった。  それは、どこからか聞こえてくる声のせいだ。 「被験体74番が目を覚ましました」 「構わん、続けろ。MM21から28まで投与し経過観察」 「了解。MM21投与準備」  何を言っているのか分からない。  だけど、いや、だからこそ、確かな不安と恐怖があった。  自分が今いる空間は真っ暗で寒暖も感じ取れず、室内か室外かも定かではないが、ただ一つだけ分かることは、自分は今、とてつもない状況に置かれているだろうということだ。  思わず声を出そうとした。だけどそれができなかった。  まるで声帯を抜き取られてしまったかのように、掠れ声一つ出ない。  極度の緊張で心臓の鼓動が速まるのを感じる。  背中をナイフで撫で上げられるような怖気も。 「MM21、投与」 「――!!」  無機質な声と共に、何かが右腕に突き立てられた。  太く鋭い、杭のような何かが、皮膚を破り肉の中へ沈んでゆく。  そして、右腕から全身に波及する高圧電流を打ち込まれたかのような痛みと衝撃。  喉が破れるほど絶叫していてもおかしくはない痛みだったが、今の自分にはそれさえできない。どれだけ痛いと感じても、それを声として出すことができないのだ。 「脈拍上昇。精神ステージ5に移行。続けてMM22、投与――――」
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