第一章 悪夢

3/4
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「もうやめてええええ!!」  家中に響き渡るほどの絶叫と共に、神木理沙(かみき・りさ)は目を覚ましていた。  布団を勢い良く跳ね除け、上半身を起こしたところで、カーテンの合間から差し込む朝日を浴びて我に返る。  ……あれは夢だったのか。  理沙は、何かを打ち込まれたはずの右腕を押さえた。  窓の外から聞こえるチュンチュンという鳥の鳴き声は、まるでそんな理沙をからかっているようでもあった。 「なんだよ……うるせえな……」  ボサボサ頭をボリボリと掻きながら、ゆっくりと体を起こしたのは、理沙の恋人である津田祐平(つだ・ゆうへい)だ。理沙とは同じ高校に通ってはいるものの、学年も部活も違う。そんな二人ではあったが、ふとしたことがキッカケで話す機会が多くなり、付き合い始めて早くも半年以上が経っていた。  今では、週に一度か二度はいずれかの家に泊まって夜を過ごす関係である。  ちなみに今回は、祐平の家に理沙が泊まった。  二人の関係はもうすっかり、お互いの両親公認である。 「ゴメン……なんかヘンな夢見て」 「夢ぇ……?」  祐平はまだ眠いのか、しきりに瞼を擦っていた。  そんな彼の裸の上半身を見つめて(下半身も裸だが。ちなみに理沙もだ)、理沙は惚れ惚れする。細身だが隈なく鍛え上げられた体は、さすがサッカー部といった感じだ。こんがりと健康的に日焼けしているのも、色白の理沙からすれば憧れだった。  ……しかしそれにしても、かなりリアルで恐ろしい夢だった。  首輪を付けられ、両手両足を縛られ、得体の知れないことをされる……。  ……予知夢だったり、しないよね……? 「まだ六時じゃねーか……」  気だるげに携帯電話を開いた祐平が、そう言ってまたも横になる。  今日は月曜日なので学校に行かなければならないが、確かに二度寝する余裕はあった。  とはいえ理沙は、祐平に続いて横になる気がどうしても起きずにいた。  また、あんな夢を見ちゃったらどうしよう……。  祐平に言ったら笑い飛ばされるかもしれないが、理沙にとってはそれは重大な懸念だった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!