第二章 逃避

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 結局、祐平が目を覚ましたのは、今から家を出て始業時間に間に合うか間に合わないか、というくらいギリギリの時間になってからだった。 「なんで起こしてくれなかったんだよ……」 「起こしたよ。でも、『あと五分』とか『もう少し』とか言ってばっかで起きてくれなかったじゃん」  暖かい風が吹く通学路に、二人の言い合う声が響く。  そんな二人を、自転車通学の生徒が急ぎ気味に追い抜いていった。  要するに、自転車通学の生徒でさえ急ぐほどギリギリの時間なのだ。  しかし理沙は真面目なほうではないし、祐平はさらに不真面目だ。  この際少しくらい遅刻しても問題ないか、とハナから諦めてしまっている。  そんなわけで、二人の歩くペースが上がることはなかった。 「お前が朝早くに大きな声出すから寝足りなかったんだって……ほら、六時くらいに」 「ああ……」  そこで理沙は、ドタバタの中で忘れかけていたあの夢のことを思い出していた。  明日からまた学校だ、嫌だなあ、と思いながら寝たから、あんな夢を見てしまったのだろうか。 「……だって、すごい怖い夢だったから」 「子供かお前は」  祐平はそう言って、理沙の頭をガシガシと揺らしてきた。 「もー、やめてよー」 「ははは、これでそんな夢、忘れたろ?」 「忘れるわけないじゃん」  そんな会話を続けているうちに、二人は校門の前に差し掛かっていた。  県立甲流高校。  歴史と伝統のある高校だが、勉学でもスポーツでもいまいちパッとしないのが実情だ。  唯一のウリの『歴史と伝統』も、言い換えれば校舎がボロい、校風が時代遅れ……ということであり、中学時代の成績が平均以下の生徒が多く集まっている。  制服も、男子は何の変哲もない学ラン、女子は何の変哲もないセーラーだ。  すでに校門近くの自転車置き場にも、前庭にも、生徒はいなかった。  いよいよ本格的に始業のチャイムが鳴る寸前なのだろう。 「あーあ、また遅刻だ。俺進級できるかな」 「テストだけ受けてればできるって。どうせ甲流だし」  愛校心の欠片もない理沙だった。  しかしほとんどの生徒がそうである。
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