第二章 逃避

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「…………」  ……この一瞬、自分が何を思ったのか、理沙自身にさえ分からない。  次の瞬間には、彼女は踵を返して元来た道を駆け抜けていた。  誰もいない廊下に響く足音……教室にいる同級生たちにも、それは聞こえているだろう。  バカなことをしてしまった、と思いながらも、理沙は走るのをやめなかった。  渡り廊下を駆け抜け、人気のない別棟に辿り着いたところでようやく足を止める。  電気も付いていないし日差しもあまり差し込まない、薄暗い廊下。  春だというのにじめじめしていたが、ここでようやく、理沙は安堵のため息をついた。  ……自分は何かに疲れているのかもしれない。  学校に?  進路に?  それとも……生きることそのものに? 「……中学生か、私は」  自虐的にそう呟きながら、理沙はふらふらと壁伝いに歩いた。  ここには誰もいない。今、ここは自分だけの場所、自分だけの空間だ。  そんな小さなことに安心感を覚える自分を嫌悪しつつも、理沙は思った。  今、自分は限りなく自由だと。 「祐平……」  私は、祐平との付き合いにも疲れてしまっているのだろうか。  そんなことはないと信じたい。  自分は祐平のことを大好きだし、愛している。  だけど……どうして。  こうして一人になった今、こんなにも気分が澄み渡るのだろう。  ――その疑問に答えてくれるものは、ここにはいなかった。  ただ、始業を告げるチャイムの音だけが、どこか遠く響いた。
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