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「…………」
……この一瞬、自分が何を思ったのか、理沙自身にさえ分からない。
次の瞬間には、彼女は踵を返して元来た道を駆け抜けていた。
誰もいない廊下に響く足音……教室にいる同級生たちにも、それは聞こえているだろう。
バカなことをしてしまった、と思いながらも、理沙は走るのをやめなかった。
渡り廊下を駆け抜け、人気のない別棟に辿り着いたところでようやく足を止める。
電気も付いていないし日差しもあまり差し込まない、薄暗い廊下。
春だというのにじめじめしていたが、ここでようやく、理沙は安堵のため息をついた。
……自分は何かに疲れているのかもしれない。
学校に?
進路に?
それとも……生きることそのものに?
「……中学生か、私は」
自虐的にそう呟きながら、理沙はふらふらと壁伝いに歩いた。
ここには誰もいない。今、ここは自分だけの場所、自分だけの空間だ。
そんな小さなことに安心感を覚える自分を嫌悪しつつも、理沙は思った。
今、自分は限りなく自由だと。
「祐平……」
私は、祐平との付き合いにも疲れてしまっているのだろうか。
そんなことはないと信じたい。
自分は祐平のことを大好きだし、愛している。
だけど……どうして。
こうして一人になった今、こんなにも気分が澄み渡るのだろう。
――その疑問に答えてくれるものは、ここにはいなかった。
ただ、始業を告げるチャイムの音だけが、どこか遠く響いた。
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