プロローグ

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 ましてや異能荒れ狂う世の中なら尚更だ。  というか、そもそも一部のお偉いさんを除けば、一般人男子からしてみれば異能があろうとなかろうとさしたる変化もないわけだし、下手に無能力者の俺たちが非日常を求めて死屍累々、鬼哭啾々たる異能バトルなんかに頭を突っ込んでも、死体の山を高くしてしまうのが、まさに関の山だろう。  刺激のために死にかけるだなんてスリリング過ぎるぜオイ。快楽のために命かける度胸なんざ、こちとら持ち合わせちゃいない。命いくつあっても足んねえよ。  俺は別に変化なんかいらない。いや、女子と関わる変化なら万々歳だが、これまで、そしてこれからの生き方自体をねじ曲げてしまうような大きな変革なんて俺は望まない。  ただ家族と、友達と、笑って過ごせりゃそれでいい。死ななきゃきっといいことあるんだ。無闇に異能バトルに関わり合いになんてなってたまるか。  ……と、ごくありふれた願いを日々赤裸々に友人に告白する俺なのだが、よく変わっていると言われる。  まぁ確かに、ひぐらしの面子で誰が一番好み? と聞かれたら野村! と即答する自信のある俺だけど。なっぴーより霧江さん派の俺だけど!  これほどまでに、普通の生活を望む、普通の高校生――ユビキタス高校生がかつていただろうか。  ……さて。  ここまで一ページ半に渡って俺のこれまでを綴ってきたわけだが、もちろんただの独白というわけではない。  ズバリ前置きだ。  ……いや、まあ、プロローグなのだから前置きに決まっているだろうと言われればそれまでなのだが……ともかく。  出来る限り平穏に、出来る限り普通に生きることを望んできた俺こと日笠涼夜なのだが、この後とんでもない――それこそ一生を左右するような事件に巻き込まれる。  あぁ忘れもしない。あれは高校二年生の夏休みの初め。  長い休みに入り、宿題はまだ手を着けなくていいや、さぁ何をして夏休みを過ごそうか、などと呑気なことを考えていた時のことだ。  あの時あんなことをしなければ俺の平穏は守られたのかもしれない、と思うと悔やんでも悔やみきれないのだが――そんな後悔は俺にとってもアイツにとっても、何の意味もなさないのだろう。  今からその話をまぁ漫然とやる気もあまりないのだが、語ろうと思う。面白くないからって批判は勘弁してほしい。  ――そうだな、まず。  その日の朝のことから話していこうか。
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