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港は
俺の街の港よりしみったれていて
まとわりつくような生臭さが夜の闇を濃くしていた。
昔はそこそこ賑わっていたんだろう魚市場があったと思しき建物の中に
長い事務机がいくつも出されてその上に灯籠が並べられていく
法名というのか、戒名というのか、いかめつらしいなんとか信女とかなんとか居士とかいう名前が書いてあって
家族から、死者へのメッセージや絵やらが灯籠に賑やかに書いてある
たまに戒名だけのやつや無縁仏らしい、白い紙を張っただけの灯籠もあって、なんだかどきりとする。
おう
オズマが傍らに立ってりんご飴を差し出していた。
氷屋、いいのか?
『今晩は』
『あっれ、彼女連れてると思ったら、綺麗な男の子。友達?』
典型的な漁場のおばちゃんらが日にやけた顔をぐわらぐわらと綻ばせてオズマに声をかけていく
そーなん。彼氏よ(笑)
軽口を叩く奴に肩を竦めて林檎飴の袋をくるくる回してみる。
何処でも何処までもお調子者だよなあ。
『今年は花火もやるんやってよ。楽しみやね』
傍らの親子連れがやはり俺達に声をかけていく
有名人だねえ、お前
いやあ、それほどでもありますよん(^ー^)
モテモテだねえ
おばはんに
失礼だなお前(笑)
熟女とお呼びしろよ(笑)
灯籠を一個一個眺めながら林檎飴をかじる奴の後ろを歩く。浴衣姿の後ろ姿を見て、こいつこんなに細かったけ?と奴の知らない姿を認識する。
お前くわないの?
甘いもの苦手なんだよ。知ってんだろ。
彼氏って何よ?
ん?
はええなお前くうの
奴の林檎飴はもう半分くらいになってる
何が?
なんでもねえよ。
この灯籠な
うん。去年の盆のあたりから今年の盆までに死んだ人たちの灯籠だよな。
死体安置所みたいだよな。
死体、ねえ(笑)
オズマは苦笑する。
死体っつうより、
人生、だよな。
お、
ほら
灯籠がひとつひとつ小さな船に乗せられていく
岸壁に小さな漁船がぽんぽんぽんとエンジンの音をたてて辿り着いた。
それが合図のように、屋台に群がっていた子供たちもあちらこちらで団扇を使って談笑してた人たちも岸壁に集まってきた。
気をつけろよ。
こんなとこで海におっこちても誰も気付きやしねえぞ
ああ
船に乗せられた灯籠が次々と海に浮かべられる
漁船がゆっくりと岸壁を離れていく
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