星に行く舟

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おい! あぶねえ! え!? オズマが俺の肩を掴んでた。 岸壁に近寄り過ぎてんだよ! こんな夜に海に落ちたら洒落なんねえぞ ・・オズマお前 奴の姿に首を捻る 浴衣は? 浴衣って? 奴はいぶかしがりながら頭の手拭いをとる わりいわりい、やっと手えひけた。予想以上に繁盛しちまって・・ どした? どしたってお前 髪・・・ 自慢のアフロがスポーツ刈りつうか、坊主というか、 ああ、これね。 わしゃわしゃとその芝生のような頭を撫でる 俺、女子大生と浮気しちまったじゃん? 彼女にばれちまって頭丸めて詫び入れたの、お前に言ってなかったっけか? じゃあ、 さっきの お前は 浴衣姿の、アフロの 歓声があがった 漁船にひかれた灯籠の行列が海を照らして ゆっくりと湾内に漕ぎ出して行った 花火が上がった さっきの雑踏は半分くらいに減っていた。 ああ、 まだ昼間の熱気がアスファルトに腰をおろした俺達の尻を温める。 多分それ、 俺のひいじいさんの弟と妹。 俺の話を聞いたオズマはこともなげに答えた。 お前も 逢ったことあんの? ねえよ。 だけどじいさんから聞いたことがあんだ。 俺にそっくりの金髪アフロがいたんだ、ってさ いつだかの戦争に 俺らくらいの年でいっちまって 帰ってこなかったんだって。 その妹も兄貴が白木の箱だけになって帰って来る前に すんげえ仲のいい兄妹だったんだってよ。 ああ。 知ってる。 そっか。 オズマは灯籠の群れを見たまま呟く。 あっちで皆、元気で仲良くしてんだな。 不思議と、怖いとか気持ち悪いとか思わなかった。 いくつもの灯りになって海に漕ぎ出した灯籠を見送りながら、 オズマに似たその人と、声をかけてきた人たちの笑顔を思い出す 灯籠の数を幾つもの死の数だとか言ったら その人は人生の数だろう?と笑ってた。 16やそこらで、 10歳にならないうちに亡くなったとしても 泣いたり笑ったりの、それぞれの人生があった。 林檎飴をあげた時の女の子の笑顔が甦る。 なあ。 ん? 屋台にまだ、林檎飴あるか? あるだろ? 奢れよ。バイト料入ったんだろ? んだよお前、甘いもんくわねえじゃん たまにはいいじゃん(^ー^) 腐るオズマの肩に笑いながらもたれて 俺は遠ざかる光の列を見送った。 幾つもの花火が上がって そして海に消えて行った。 (了)
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