そのに②   ~恐怖~

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 携帯電話を握ったままで、サイドミラーに目をやる。  そこでは件の信号機が、黄色い明かりを点滅させている。  こんな、こんな残酷なことはない。  ハルヒコを乗せて通り越したときには、確かに赤く点っていた歩行者用信号機が、今は何の色も点さず沈黙している。  気が知れない。  帰り道にここを選んでしまった自分が、理解できない。  僕は、あの信号機を、電話をする直前に通り越してしまっていた。  さすがに避けているよなとハルヒコが言った道を、僕は当然のように通ろうとしていた。  ここからもう少し進めば、あの自動販売機のある場所へ行き着いてしまう。  ただ、それだけならば、まだ救いがないわけではない。  なにしろ、僕はまだ信号を通り越しただけなのだから。  僕はまだ、霊を見たあの場所に行き着いてしまったわけではないのだから。  今から引き返して違う道を通れば、何の問題もないような気がした。  だから、それだけならば、きっとまだ救いがあったのだ。  いつからだろう。  いつからそこにいたのだろう。  窓の外ではあの女が、白に近い色の服を着たあの女が、やはり俯いて、否定のしようもなく僕のことをじっと見ていた。  今度は声も聞こえないほど遠くではない。  手を伸ばせばドアに触れられるような、ごくごく近い位置。  僕は、 「どうかしたんですか」  窓を開けていた。
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