33人が本棚に入れています
本棚に追加
どのみち自称幽霊は、僕に口を開くタイミングすら与えてはくれなかったのだけれど。
「せっかく波長を合わせたっていうのに、これでさようならじゃあ意味がないです」
「どういうことですか」
「お話しましょうっていうことです」
にっこりと、青白い顔に薄明かりのような笑顔を浮かべて幽霊は言った。
ハルヒコのにやけ顔と同質の、友好的な笑顔に見える。
「波長について質問したかったんですが」
それがこの女の狙いだったのか、それとも僕の心が勝手に動いたのか、幽霊の笑顔は、彼女とコミュニケーションをとることへの抵抗を僕からいくらか取り除いてしまったらしい。
「なんだ、そっちのことでしたか」
僕の言葉の意味を彼女が取り違えていたというだけの、他愛もない指摘をしてしまったのは、相手が幽霊だとしてもそれぐらいの会話ならば問題ないだろうと思えてしまったからである。
それほどに、僕の中の抵抗は取り除かれていた。
「ラジオの電波みたいなものですよ。ダイヤルをひねって、いちばんよく聞こえるところにあわせるじゃないですか」
ラジオにはほとんど触れたことがない上に、ダイヤル式のラジオなどは見たことしかないけれど、彼女の言わんとしていることはなんとなく分かった。
「わたしが電波で、あなたが受信機の方ですね。波長が合うと、こうしてお話ができるようになったり、わたしの姿がよく見えるようになったりするんです」
ほら、最初に会ったときよりも親しみやすいでしょう。
そう言って自分のことを指差すと、幽霊はなぜか自慢するような笑みをつくった。
「じゃあ、僕のダイヤルをいじったっていうことですか」
素朴な疑問は、もはや軽口じみていた。
彼女の言うとおり、僕は悔しいほどに親しんでしまっている。
「霊感もない人のダイヤルなんて簡単には動きませんよ。わたしが、あなたにぴったりの波長にあわせたんです。さっき乗せてもらってから、ずっと波長合わせをがんばっていたんですよ」
僕には霊感がないらしい。
それなのに、どうして少女の霊は現れたのだろう。
思い返せば返すほど、やっぱりあの出来事は不条理だ。
最初のコメントを投稿しよう!