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「あ、どうしてわざわざ波長を合わせたんだろう、っていう顔をしてますね」
本当は、どうしてあの少女の霊が現れたんだろう、という顔だったのだけれど、それを指摘するのは気が引けた。
彼女が自称幽霊だからではなく、彼女の表情のせいである。
さあ喋ろうと意気込んでいるところに水をさすのは、相手が誰であろうと気の引けることだ。
随分と長い間かけっぱなしにしていた気のするエンジンを、ようやく切った。
彼女を降ろしたらすぐにでも走り去ろうと思っていたけれど、彼女はきっとまだまだ降りようとはしない。
「それは、あなたとこうしてお話をするためです」
「どうして」
僕がそう聞いたのは、彼女がその言葉を待っているに違いないと思ったからだ。
「ところで、カノジョさんとはうまくいっていますか?」
質問に対し、質問。
波長があっているせいなのだろうか、僕はそれに対し、何も不審がることなく応えていた。
「ぜんぜんうまくいっていませんよ。この間、幽霊に遭遇してからというもの、ほとんど口もきいてくれません」
「ですよね、逃げちゃいましたもんね」
苦笑混じりに僕が言うと、幽霊も苦笑して言う。
バックミラー越しに二人で苦笑しあってから、僕は
「知ってるんですか」
と苦笑いをやめた。
「はい、あの子から聞きましたし、それに、見たんですよ、あなたがビンタされるところ」
この幽霊は、あの少女の霊と知り合いで、しかも僕の振られる現場を見ていたらしい。
ということはつまり、
「グルだったんですか」
そういうことなのだろうか。
半ば確信をもって放たれたその言葉は、その直後に僕を後悔させることとなった。
僕の後ろに座っているのが本当に幽霊だとして、本当にあの少女の霊と仲間であるのだとしたら、あの夜のことを咎められて、果たしていい気がするだろうか。
気を悪くするに決まっている。
僕の後ろに座っているのが本当に幽霊だとして、その幽霊が気を悪くしたら、彼女に背を向けている僕はいったいどうなってしまうのだろうか。
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