そのに③   ~背後~

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「あ、どうしてわざわざ波長を合わせたんだろう、っていう顔をしてますね」  本当は、どうしてあの少女の霊が現れたんだろう、という顔だったのだけれど、それを指摘するのは気が引けた。  彼女が自称幽霊だからではなく、彼女の表情のせいである。  さあ喋ろうと意気込んでいるところに水をさすのは、相手が誰であろうと気の引けることだ。  随分と長い間かけっぱなしにしていた気のするエンジンを、ようやく切った。  彼女を降ろしたらすぐにでも走り去ろうと思っていたけれど、彼女はきっとまだまだ降りようとはしない。 「それは、あなたとこうしてお話をするためです」 「どうして」  僕がそう聞いたのは、彼女がその言葉を待っているに違いないと思ったからだ。 「ところで、カノジョさんとはうまくいっていますか?」  質問に対し、質問。  波長があっているせいなのだろうか、僕はそれに対し、何も不審がることなく応えていた。 「ぜんぜんうまくいっていませんよ。この間、幽霊に遭遇してからというもの、ほとんど口もきいてくれません」 「ですよね、逃げちゃいましたもんね」  苦笑混じりに僕が言うと、幽霊も苦笑して言う。  バックミラー越しに二人で苦笑しあってから、僕は 「知ってるんですか」  と苦笑いをやめた。 「はい、あの子から聞きましたし、それに、見たんですよ、あなたがビンタされるところ」  この幽霊は、あの少女の霊と知り合いで、しかも僕の振られる現場を見ていたらしい。  ということはつまり、 「グルだったんですか」  そういうことなのだろうか。  半ば確信をもって放たれたその言葉は、その直後に僕を後悔させることとなった。  僕の後ろに座っているのが本当に幽霊だとして、本当にあの少女の霊と仲間であるのだとしたら、あの夜のことを咎められて、果たしていい気がするだろうか。  気を悪くするに決まっている。  僕の後ろに座っているのが本当に幽霊だとして、その幽霊が気を悪くしたら、彼女に背を向けている僕はいったいどうなってしまうのだろうか。
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