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他に車の姿は見当たらないけれど、交通ルールに従って左にウインカーを出す。
煌々と明かりを発する自動販売機の脇に、僕はとうとう停車した。
とうとう、目的地に辿り着いてしまった。
「それって、どういう意味さ」
「考えてもみな。その幽霊は、ただ出てきただけなんだ。お前のすぐ隣に割り込んできたっていうのは野暮としか言いようがないが、かといって幽霊が何か危害を加えてきたわけでもないんだろう」
エンジンを切ろうか迷った末、結局キーを回した。
幽霊が出てきたときにすぐ逃げられるようにだなんて、そんな逃げ腰ではいけない。
僕は今夜幽霊を退治しに来たのだし、なによりもガソリンがもったいない。
「結局、チヒロさん一人を置いて逃げるだなんていう愚行にはしったのはお前だろう。それが、チヒロさんに愛想を尽かされた直接の原因なんだろうが」
まばらに並んだ街灯が鈍く照らし出す、起伏も分かれ道もないシンプルな風景。
街灯なんかよりもずっと眩しい自動販売機が映し出す、昼間はにぎわっているはずの一本道。
チヒロと笑いあった、チヒロと缶ジュースを飲んだ、チヒロと口づけをした、チヒロとの思い出に溢れた場所。
チヒロにプロポーズした、チヒロに頬を打たれた、チヒロに脛を蹴られた、チヒロとの苦い思い出すら詰まった場所。
少女の幽霊が現れた、忌々しい場所。
それが、ここだ。
恐る恐る、バックミラーに目をやる。
しかし人の気配はない。
僕の両脇にも、ハルヒコの隣にも不審なことはなかった。
「それなのにお前は、それを棚に上げて幽霊を逆恨みしているんだろう。その上、幽霊を退治しようっていうんだから、もう、どっちが悪者だか分からないよ」
「逆恨みの復讐に手を貸すのが嫌だっていうことかい」
ほんとうに、今更だ。
どうしてそんなことを、ハルヒコはこんな段階になってから言うのだろう。
幽霊に復讐したいという僕の妄想じみた願望を、現実味のある計画に変えてくれたのは他でもないハルヒコじゃないか。
「卑屈な言いかたをするなよ。それに、やらないって言っているわけじゃあないだろう。幽霊がいるかいないかだったら、いない方がいいに決まってる。悪かったよ、変なこと言って」
「変なこと?」
「だから、乗り気じゃないって。やる気がなくなったわけじゃないから、あんまり気にしないでくれよ。缶、捨ててくるわ」
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