君のために僕ができること。

2/2
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
なんて、愛おしいんだろう。 目の前で泣く君。 俺は、その真っ赤に腫れた目も、そこから零れる涙も、時折洩れる嗚咽さえも愛している。 全部、全部。 俺は、君を傷付けるのが世界で一番得意なんだ。 「…なん、で…?」 彼女は詰まる声で問いかける。 「だからさ、飽きたって言ってるんだよ。さ、分かったら消えてくれないかな?」 とびきりの優しい笑顔で言うと、彼女の目からは今まで以上に涙が溢れだす。 「や、だ…やだ……やだ、よ……」 壊れたように、否定の言葉を呟く彼女。 ああ、彼女は俺を愛しているんだ。 俺と同じくらいに。 「うるさいな。キライだって、言ってるんだよ。はい、バイバイ。」 泣き崩れる彼女に背を向けて、俺は歩きだした。 彼女の声が聞こえないほど遠くへ。 彼女の姿が見えないほど遠くへ。 「……また、傷付けたかな。」 とあるビルの屋上に立ってぽつりと言う。 そして、愛おしい愛おしい、大切な君を想った。 笑顔。 怒った顔。 泣いた顔。 拗ねる顔。 喜ぶ顔。 全てが大好きだった。 愛していた。 いいや、今でも大好きだ。愛している。 でも 「駄目、だよね。君だけは傷付けたくないからさ。」 頭の中で微笑む君に、出来る限り優しく微笑み返した。 「…キライなんて嘘だ。だから、もう傷付けないから。…君だけは……」 泣きそう、だ。 あと一言言ったら、きっと冷静じゃいられなくなる。 俺は柵に寄りかかると、ビルの下を見た。 「……高」 泣きそうな自分をごまかそうとして、わざとどうでもいいようなことを呟いた。 柵に触れる手が、急に温かくなる。 「私だけは…の続きは、何、ですか?」 聞き覚えのある声がすぐ後ろで聞こえた。 「……君には教えないよ。」 ぽたり、と雨よりも小さな粒の跡が、ビルの遥か下の地面に付く。 振り返った先の彼女は、頭の中の彼女よりも優しく微笑んでいた。 (君だけは、失いたくない。)
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!