8月15日

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 勝てそうな気がしない戦争だった。でも、負けるという実感も不思議となかった。  特攻というが、計算上は逃げ帰れるように設計されていると説明された。実験も見せられた。無人の実験艇を走らせながら、これが爆薬を仕掛けた地点を通過した瞬間に遠隔操作で点火する。数秒後に爆薬が爆発する。何とかギリギリで実験艇は爆発圏外に逃げたものの無人の筏は波にもまれてバラバラになってしまった。説明した教官は、訓練どおりにきちんとやれば帰還できると言った。本番では人が乗っているし、兵は泳げる。  しかし、この実験がまやかしであることは誰の目にも明らかだった。艇は全速力で走行しながら爆薬を仕掛けるのではない。敵船腹に近づき、停止した状態で爆薬を仕掛け、それからエンジンをかけて逃げるのだ。その間に敵の銃撃もあるだろう。それに兵と爆薬が乗れば実験のように速くは走れないのだ。二度目の実験ではベニヤの筏は爆発に巻き込まれて、文字どおり木っ端微塵になってしまった。  この後、作戦は順次実行にうつされたが、帰還した者はひとりも居なかった。  当初は、この無謀な作戦も成果を挙げた。しかしすぐに効き目はなくなった。敵が停泊中の艦隊の周囲に材木を撒いたのだ。材木に阻まれるほどひ弱な特攻艇だったのだ。そして、出撃していった隊員たちは敵艦船に近づけないまま銃撃を受けて死んでいった。  それでも作戦は続行された。友人たちが順に出撃していった。いずれはぼくも行く。効き目がないとわかっている作戦でも、十代の少年たちは淡々と死に赴いていったのだ。頭の良いのもいた。いろいろと難しいことを教えてくれた。機械に詳しく、教官がてこずっていたエンジンをあっというまに修理してしまうようなやつもいた。夜、絵や音楽の話しをしてくれた者もある。ぼくの知らない異国の小説や詩について教えてくれた者、星や気象のことに詳しい者もいた。
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